広島高等裁判所岡山支部 昭和27年(う)262号 判決
よつて訴訟記録並に当審の事実取調べの結果を綜合すると、昭和二十二年三月新学制が布かれ岡山県苫田郡大野村、香々美南村芳野村の三ケ村に於ては三ケ村共同にて新制中学校を設置することとなり、香々美中学校組合を設立したのであるが、学校の設置場所について協議がまとまらず、此の内紛のため岡山県知事に対する学校組合設立許可の申請手続をなさず、従つて所論のように岡山県知事の許可は受けていなかつたものであるから、法律上では学校組合は設立されていなかつたものと認められる。
然しながら右組合は内紛のため時には三ケ村の内一村が組合を脱退するというが如き騒ぎはあつたとしても、兎も角事実上は存在し校舎を設け、昭和二十二年五月九日岡山県告示第二百五十八号を以つて香々美中学校の設立認可を受けて事実上学校をも経営して来たものであること、並に被告人長石は昭和二十四年二月二十日、同坂田は同年四月二十一日右学校組合の組合会議員に挙げられて、いずれも同組合の右学校建築委員で且その常任委員であつたことが認められる。(当審証人小坂修平の供述、昭和二十八年十二月八日付及び昭和二十九年一月二十五日付岡山県教育委員会教育長より当裁判所宛各回答参照)
そこで右両被告人が所論のように学校組合について岡山県知事の設立許可がない限り、刑法第七条第一項にいわゆる公務員たるの身分を取得し得ないものであるかどうかについて検討すると、前記三ケ村中学校組合規約第四条によると、組合会議員は十二名として各村毎に四名を村会に於て、その村の公民中村会議員の被選挙権を有するものより之を選挙す、その任期は四ケ年とす、として選挙方法、被選挙資格、任期を定め、その第七条によると、選挙を終り当選人定まりたるときは村長は直に当選の旨を通知し、当選人の住所氏名生年月日を組合管理者に通報すべし、として、組合会議員選挙の効力の発生要件を規定している。(此の点は当審証人小坂修平の供述は異るが、右組合規約に照らして措信し得ない)
然して右両被告人は当時いずれも居村香々美南村の村会議員であつたから、右組合規約に定めた被選挙資格を有するものであること、及び所属村会に於て右学校組合の会議員として推薦の形式ではあつたが正当に選ばれたものであることは明かである。然し此の選挙の結果を学校組合の管理者に通報したという直接の証拠は認められないが、右両被告人共右組合の学校建築委員であり、且その常任委員であつて組合会議にも出席し、学校建築の事務にも関係していた事実から見ると、右組合規約に定めた選挙の効力の発生要件は充されていたものと認めざるを得ない。
かくして右学校組合にして岡山県知事の設立許可さえ受けていたものとすれば、正当な手続で選ばれた右両被告人は香々美中学校組合の組合会議員として正式に公務員たる身分を取得したであろうことは議論の余地はないのではあるが、前記のようにいまだ県知事の設立許可がなかつたのであるから、法律上は学校組合はいまだ設立されていないで、その設立過程にあり、従つて右両被告人も法律上は学校組合の会議員とはいえず、単に設立過程にある学校組合の事実上の会議員であつたに過ぎないことはいうまでもないところである。
然しながら此のように法律的にはいまだ設立過程にある学校組合といえども、地方自治法第二百八十四条に根拠を持つものとして事実上設立され、校舎を設営し、之が経営する中学校も前記のように正式に県知事の認可を受け、他村と共同して之を運営するに必要な規約を作成し、之にもとづいて被告人等は地方自治法上認められた村会に於て、村の他の一般事務と等しく公共的な学校関係の事務を処理する村代表の機関として適法に選ばれたものであるから、何等法令に根拠を持たない職務に従事するものとはいえない。
刑法第七条にいわゆる法令に依り公務に従事する議員、委員その他の職員中には、右のような職務に従事するものも当然に包含されるものと解する。